わたかわ 鉄道&旅行ブログ

乗り鉄&旅好きの20代男子が全国を巡る!

【蘇る記憶】豪華寝台列車「カシオペア紀行」で行く仙台の旅

 

2024年3月17日(日)

本日は上野駅へとやってきました。

かつて東北・上信越・北陸・北海道といった各方面への在来線長距離列車のターミナルであった上野駅。夕方から夜にかけては各地の地名がホーム上を躍っていましたが、しかしそんな光景も今は昔。主要な特急街道は一通り速くて快適な新幹線へと置き換えられ、また航空機や高速バス等に代替されることで年々数を減らしていき、今や上野駅を発着する定期夜行列車は1本も存在しません。

2010年代以降も上野駅を発着する夜行列車はわずかに残存していましたが、上野~青森駅間(奥羽本線経由)を結ぶ寝台特急〔あけぼの〕が2014年に、上野~札幌駅間を結ぶ寝台特急北斗星〕が2015年に、それぞれ定期運行を終了。そして2016年、北海道新幹線開業に伴い寝台特急カシオペア〕が廃止されたことで、ついに「上野発の夜行列車」は完全に過去のものとなってしまったのです。

当時中学生~高校生だった私は、2015年2月に家族に無理を言って廃止間際の〔北斗星〕に上野から札幌まで一度だけ乗せてもらいました。これは本当に今でも深く深く思い出に残っています。

その一方で〔カシオペア〕の姿を上野駅のホームで見ることは幾度あれど、ついに一度も乗車することはできずラストランの日を迎えることになりました。当時はまだ高校生ですから、鉄道趣味に大きな資金を投入するほど経済的な余裕がなく、運行最終日も指をくわえて見ていることしかできなかったのです。

あの日から8年、そしてこの列車の存在を知ってからはもう10年以上になりますが、ついにようやくカシオペアに乗れる」日がやってきたのです!!

2016年の定期運行終了後、カシオペアは団体専用の臨時列車として東日本を中心に不定期で運行されてきました。定期運行時代と比べ料金が割高であるほか、現地での観光や宿泊がセットになった2~4日間程度の旅行商品として発売されることが多く、なかなか乗車の機会に恵まれてこなかったのです。

しかし今回、何と上野から仙台までの「乗車のみ」のプランが設定され、衝動的に予約をしてしまいました。現役当時(上野~札幌)と比べると大変短くはあるものの、いつ完全引退をしてもおかしくないと考えるとこのチャンスを逃すわけにはいきません。

なお、今回のツアー代金は1人106,000円。上野から仙台まで、約5時間の乗車ですから1時間あたり2万円…いやいやそんなことは考えないようにしましょう。中高生時代はもちろんのこと、大学生の頃の自分であってもおそらく出すことのできないほど高額な料金設定ですが、年月が流れ今では社会人となったからこそ何とか出せるようになったというべきでしょうか。それでも勇気のいる金額であることには違いありません。

上野駅の発車ホームは現役時代と同じ地上ホーム13番線。2017年にクルーズトレイン「TRAIN SUITE四季島」が運行開始となったのに伴い、専用ラウンジや専用ホームが整備されたことで多少13番線付近の設備も変わってはいるものの、しかし大きく様子は変わりません。

ツアー専用列車ということで乗車証を所持する申込者しか13番線には立ち入れないようになっており、騒がしさもなくいたって平穏な様子です。

上野駅の発車時刻は9時50分。終点の仙台駅には14時59分に到着する予定です。

現役時代は大宮、宇都宮、福島など主要駅に停車をして客扱いを行っていましたが、今回の運行では途中一切ドアは開きません。参加者全員が必ず上野から仙台まで乗車します。

発車時刻も近づいておりますので、いよいよ車内へ。今回はカシオペアの編成内で最も一般的な「カシオペアツイン」を利用します。

カシオペアは全ての客室がA寝台個室で、B寝台個室・開放寝台・指定席扱いの座席等は存在しません。ツアーのため事前に個室の位置を指定することはできないのですが、今回私は有難くも2階部分を割り当てていただきました。

扉を開け、いざ入室! 昼行運行のためか、初めは座席モードになっていました。

テーブルは2枚あり、座席モードの時は手前に出して使うことができるようになっています。カシオペアに1人用の個室はないため、今回は贅沢にも2人用の個室を1人で利用させていただきます。

奥にはもう1人のための寝台スペースと荷物置きスペースがあります。パンフレットのラックのようなものもありますが、中には特に何も入っていませんでした。

また、A寝台ということで全ての客室にトイレがついています。中は決して広くはありませんが、これはとても安心かつ便利な設備です。洗面台は便座の真上で手前に引き出すようになっており、限られたスペースを工夫して配置されています。

進行方向を向いて座るとご覧の通り。壁にはアラーム機能付きのデジタル時計、くず物入れ、各種スイッチがあります。カシオペアのロゴがある箇所はかつてテレビモニターか何かが置かれていたのでしょうが、今は取り外されています。

発車前、客室乗務員の方より朝食のサンドウィッチとオレンジジュース、天然水が配られました。もちろんこれはツアー代金に含まれており、現役当時にこのようなサービスはありません。また、茨城県の名産品を使用したチョコレートクッキー「いもくりなんきん」もいただきました。カシオペアのロゴの入ったハンカチとペンは乗車前の受付時にいただいたものとなります。

さらに、乗車中のみ有効な「アイスクリームチケット」と「ドリンクチケット」もいただくことができます。車内販売のワゴンおよび12号車にある売店で引き換えることができ、もちろんこれもツアー代金に含まれています。後ほど利用しようと思います。

ワゴンによる車内販売および12号車売店では、ジュース・お酒・おつまみ・お菓子・カシオペアグッズ等が揃っています。新幹線・在来線を問わず全国的に車内販売が縮小傾向にある中で、団体専用の臨時列車でこれほどまでに力を入れてやってくださるところにやはり気合いの入りようを感じます。

いろいろと物色していたところで9時50分となり、列車は時刻通り上野駅を発車。これから仙台駅まで、348.2kmの旅の始まりです。

テーブルを収納し、寝台モードにするとご覧の通り。離れていた2つの椅子の座面がぴったりとくっつき、ひと続きの寝台になります。夜行運行時はここにシーツをかけて寝台として利用することができると思われますが、今回は昼行運行のためリネン類の用意はありません。

さっそく、まずはいただいた大船軒のサンドウィッチとオレンジジュースで優雅な朝食といきます。完全な個室なので周囲の視線を一切気にする必要はなく、のんびりとしたひと時です。

埼玉県に入り、列車は大宮駅を通過。運転停車さえもせず、徐行しつつ通過していきます。現役当時に大宮駅を通過するなど考えられなかったことでしょうから、これもまた貴重な瞬間です。

受付時にいただいたネックストラップ型の乗車証とは別に、ここで改めて記念乗車証が配られました。

このツアーには、もちろん昼食も含まれています。昼食は予約時に「客室でスペシャル弁当」か「ダイニングカーでフランス料理」のいずれかを選択する形となっており、せっかくならばと私はダイニングカーの方を予約しました。ダイニングカーでの昼食は2部制になっており、前半(10時45分~12時05分)・後半(12時35分~13時55分)のいずれかが自動的に割り振られます。私は後半なので、昼食まではまだしばらく時間が開きます。

列車は宇都宮線東北本線)に入り、ぐんぐん北上中。寝台列車らしい通路から、流れる景色を眺めることができます。

ここで改めて編成のご紹介ですが、E26系客車は12両編成。12号車の前寄りに電気機関車を1両連結し、計13両での運行となります。客車と聞くと往年のブルートレインが思い起こされますが、このE26系の営業運転開始は1999年7月と新しく、前年の1998年にデビューしたJR東海JR西日本寝台電車285系サンライズエクスプレス」と車内の設備が似ている部分もあります。

5号車と9号車にはミニロビーがあります。観光列車のボックスシートのような造りで、誰でも自由に利用することができます。

仙台寄りの先頭12号車はラウンジカーになっており、開放的なくつろぎの空間が演出されています。願わくば青函トンネルをくぐる様子をこのラウンジカーから見届けたかった…という思いはあるものの、白昼の東北本線でこれだけ贅沢に空間を利用した車両が走っているというのも十分特別感があります。

編成内には自動販売機らしきものもありますが、商品の陳列はなく完全に営業を停止しています。ツアーにあたって配布される「車内のご案内」を見ても自動販売機の設置がある旨の記載はなく、長らく営業していないのかもしれません。

大宮駅通過から約1時間後、列車は宇都宮駅を通過。こちらも大宮駅と同じく、ゆっくりではあるものの運転停車することなく通過していきます。駅のホームでは列車の通過を見届けるべく鉄道ファンの皆様がカメラを構えていたほか、宇都宮線の途中には有名な撮影地もあるようで、大変な数のカメラがこちらへ向けられていました。

宇都宮駅を過ぎると次第に車窓から首都圏らしさが薄れていき、上野からだいぶ走ってきたなという印象です。現役当時は上野駅を16時20分に発車していましたので、季節にもよりますがそろそろ夕暮れ時といったところでしょうか。

曲面を描く大きな窓、ゴロンと寝転がるとちょうど目の前に大きな空が広がります。あいにく雲一つしかない空ではありますが、時間を忘れてのんびりと過ごすひと時がたまりません。

黒磯駅では2分ほどの運転停車があります。上野駅からずっとノンストップで駆け抜けてきましたが、いったんここで小休止です。

ちょうど12時を回りましたので、12号車の売店を利用できます。乗車時にいただいたアイスクリームチケット&ドリンクチケットを利用し、アイスクリームとホットコーヒーを引き換えてきました。カシオペアの車内限定の何か、というわけではありませんが、長旅のお供となるとついついアイスクリームとコーヒーが欲しくなるものです。

アイスクリームは北海道江別市に拠点をおく「町村農場」のもので、かつてカシオペアが北海道まで運行されていた時代を思い出します。ミルクたっぷりの味わいで、熱々のコーヒーを啜りながらいただく瞬間は至福のひと時です。

12時30分を過ぎ、いよいよお待ちかねの昼食の時間がやってきました。3号車のダイニングカーへと移動します。

ダイニングカーも2階建てで、このうちダイニングスペースは2階のみ。8号車方面から向かう場合は、いったん1階部分に降りてから階段を上がって2階へ向かいます。

現役運行当時、ダイニングカーは夕・朝食での利用のみですから、昼食での利用は昼行運行ならではという感じがします。北斗星乗車時に北海道の内浦湾を眺めながら朝食を食べた記憶も蘇ります。

テーブルは2人掛けのものと4人掛けのものが配置されており、予約客でほぼ満席です。私のような一人客は相席になりますが、窮屈になりすぎないようある程度座席の配置が考慮されています。

全員自動的にフランス料理のコースとなりますので、タイミングを見て一品ずつ運ばれてきます。まずはオードブル「ホタテ貝柱のサラダ仕立て カシオペアスタイル」。カシオペアの車体に描かれた5本のラインに見立てた盛り付けがとても鮮やかです。バルサミコソースをつけていただきます。

2品目は「真鯛ポワレ 赤ワインのクリームソースときのこのクリーム煮を添えて」。真鯛の身はふわっと、皮は香ばしく仕上がっており、クリームソースとの相性も抜群です。また、出来立ての料理を温かい状態でいただけるのも感動です。

3品目は「国産牛ロース肉のソテー 甘酸っぱい林檎の薫りを添えて」。お肉にしっかり味がついておりそのままでも十分美味しいですが、林檎のソースをつけて頬張るとまた違った味わいを楽しめます。林檎のソースには食用の花びらがのっています。

食事の途中、列車は福島駅へ到着。気づけばすっかり東北地方へ突入、ここでは3分ほどの運転停車となります。福島駅を出るとあとは仙台駅までノンストップ、旅も残りわずかとなってきました。

ラストはデザート&コーヒー。デザートは濃厚なガトーショコラ、赤葡萄のシャーベット、いちごとホイップクリームの盛り合わせです。何から何まで列車内とは思えず、また特にこのような不安定な盛り付けを揺れる列車の中で崩さずにテーブルまで運んできていただけるのは本当に凄いことだと感じます。

合間でパンもいただき、お腹いっぱい。文字通り優雅な時間を過ごさせていただきました。

残りの時間は特にしなければいけないこともなく、ただただ車内でのんびりとくつろぐのみ。一度もドアが開かない列車に5時間乗り続ける、というとなかなか大変に聞こえるかもしれませんが、疲れや大変さは1ミリもありません。むしろもう5時間が経過しようとしていることが本当に信じられない思いです。

先ほどもご紹介した通り、カシオペアに使用されるE26系客車は1999年にデビューしました。今年で運行開始から25周年の節目を迎えます。

実は僭越ながら、私も今年で25歳を迎える年となります。つまりカシオペアと私は1999年生まれの同い年なのです。

自分と同い年に生まれた豪華列車には、何としても引退までに一度乗りたいと思いながらこれまでの人生を歩んできました。しかし定期運行時は金銭的に厳しく、またツアー専用となってからも金銭・時間を確保することが難しく、乗車することができていませんでした。冒頭にも述べた通り8年越しの夢が、今回まさに叶ったのです。

寝台列車としては決して古くない、かもしれませんがそれでも四半世紀。近年の世の中の合理化の波に流されれば、カシオペアだってひとたまりもありません。事実、JR東日本は事業用機関車を近く完全に廃止する方針であるとしており、カシオペアの行く先は決して明るいものではありません。

「きっと、あの列車も、いつか――。」そんな不安と焦りに怯えながら過ごしていた学生時代が脳裏にこびりついている私としては、やはり「乗れる時に乗っておく」これが正しいスタンスなのだと改めて感じさせられます。

おそらく私にとって、カシオペアへの乗車は今回が最初で最後になることでしょう。いやもちろん何か機会があればまた是非乗車したいのはやまやまですが、金銭と時間の工面をそう何回もできるわけではありません。

今の私にできること、それはこんなにも素晴らしい列車が存在していたことを一人でも多くの方に知っていただくこと、そして微力ながらその魅力を広めることであると心得ています。

14時59分、列車は時刻通り終点の仙台駅に到着。日によっては大きく遅延することもあるようですが、本日は無事に定刻での到着となりました。

仙台駅のホームでもまた、大勢の鉄道ファンの方が写真撮影をされていました。また鉄道ファンでないと思われる方もカメラを向けており、珍しい列車というのはいつの時代も人の心を惹きつける力をもっていると感じます。

下車後は必ず仙台駅中央改札口へと向かい、係員さんの指示にしたがって改札外解散となります。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。