2024年4月5日(金)
本日は(大都会)岡山駅へとやってきました。これからとある列車に乗車して、島根県の出雲市へと向かいます。
岡山~出雲市駅間を結ぶ列車といえば、伯備線を経由して運行される陰陽連絡特急〔やくも〕です。1972年の山陽新幹線新大阪~岡山駅間開業と同時に運行を開始してから今年で52年となります。
当初は気動車特急でしたが、1982年に伯備線全線および山陰本線の伯耆大山~知井宮(現在の西出雲)駅間が電化されたことで電車特急「381系」での運行が開始。それから今日に至るまで、40年以上に渡り381系は陰陽連絡の顔として毎日走り続けてきました。
しかし明日4月6日からは、新型特急「273系」の運行がスタートします。381系→273系へは約2ヵ月ほどで置き換えが完了する予定で、全列車が381系での運行となる日は本日(4月5日)が最後となります。
381系は引退を前に、様々なリバイバル塗装を実施。このうち、紫色の「スーパーやくも色」編成が本日(4月5日)をもってラストランとなります。
最終運用にあたるのは、岡山17時13分発の特急〔やくも21号〕出雲市行です。今回は381系への惜別乗車、ならびにスーパーやくも色編成の最後の雄姿に立ち会うべく、終点の出雲市まで乗車していきたいと思います。
2番線ホームに下りていき、しばらくすると列車がゆっくりと入線。ホーム上は大変多くの鉄道ファンが集まっています。
381系やくものうち一部の編成は、車両前面に大きな窓がついた通称「パノラマやくも」編成となっています。「スーパーやくも色」塗装にもこの編成が用いられ、「パノラマグリーン車」として高い人気を集めていましたが、273系の導入に伴いこの「パノラマやくも」は本塗装を含め全編成が本日(4月5日)をもって引退となります。
本日乗車するこの〔やくも21号〕はパノラマグリーン車・スーパーやくも色を全て含めてもラストランとなる運用。大きな窓から伯備線の景色を眺めることのできる最後のチャンスとあって、グリーン車は発売と同時に満席となってしまいました。
国鉄時代から活躍する車両ではありますが、2000年代に入ってから大幅なリニューアルが施されています。側面の行先表示器は方向幕ではなくドット式のデジタル表示のようです。
そんなわけで残念ながらグリーン車は押さえられませんでしたので、今回は普通車で行くことにします。座席も国鉄感はありませんが、それもそのはずで同様に2000年代に入ってからリニューアルされているのです。
17時13分、列車は定刻通り岡山駅を発車。この先倉敷、備中高梁、新見、生山、伯耆大山、米子、安来、松江、宍道、終点出雲市に停車します。
スーパーやくも色のラストランではありますが、車内はさほど激しく混雑する様子もなく、鉄道ファンではない一般の利用者の方が多く乗車されています。身も蓋もない話をすると、この編成が特別なのはあくまでも外装のみで内装は他の381系と基本的に同じですから無理もありません。
まずは山陽本線をひた走り西へ向かいます。岡山~出雲市駅間は220.7キロ離れており、これは東海道本線の東京~菊川駅間に相当します。このうち山陽本線はわずか15.9キロ(東京~川崎くらい)しかありません。
背面テーブルの部分には、やくもの全車指定席化を知らせるステッカーが貼られていました。2024年3月16日のダイヤ改正にて自由席が廃止されたため、381系が全車指定席として運用されるのは今の時期のみとなります。
かつての指定席車両・自由席車両で設備に差異はありませんが、今回はせっかくなのでかつて自由席として運用されていた「4号車」を予約。2024年3月15日まで「やくも」の「4号車」という表記の特急券は原則見ることのできないものだったということになります。
通路と座席部分の間には段差があり、座席部分の方が少しだけ高くなっています。眺望を考慮してのことなのか…と思いますが、バリアフリーが叫ばれて久しい昨今ではなかなか目にすることのない構造です。車両が設計された当時の時代背景が今と異なるであろうことは想像に難くありません。
倉敷より伯備線に入り、備中高梁駅を発車。ホーム上や沿線には多くの撮影者がおり、車両の中から・外からそれぞれ思い思いの方法で本日のラストランに立ち会う鉄道ファンがいることを実感します。
伯備線沿線では桜が見頃を迎えており、車窓にもいたるところに美しい桜並木が映ります。例年よりも遅咲きと言われる今年の桜ですが、だからこそ今回のスーパーやくも色の”卒業”のタイミングと重なることができたとも言えます。
方谷駅では運転停車をし、特急〔やくも24号〕岡山行と行き違いを行います。あちらは「国鉄色」のリバイバル塗装がなされており、かつて日本全国各地で活躍した懐かしのカラーリングが再現されています。あちらの塗装は6月14日まで運用される予定となっています。
伯備線と並行するように流れる川は高梁川です。瀬戸内海に向かって注ぐ川で、〔やくも21号〕はその下流から上流に向かうようにして進んでいきます。
車内では、スーパーやくも編成の「おもいできっぷ」も配布されました。乗車記念カードのようなもので、これと同時に特急券の券面に米子車掌区のスタンプも押していただいています。
18時15分、列車は中国地方内陸部のターミナルである新見駅に到着。岡山~米子のだいたい中間にあたります。
ここでも多くの撮影者の方が列車に向かって手を振ってくれました。新見駅は特急やくもでの岡山県内最後の停車駅のため、もうこれを最後にスーパーやくも色の381系が営業列車として岡山県に姿を現すことはありません。
足立駅では運転停車を行い、特急〔やくも26号〕岡山行と行き違い。通常色の381系でしたが、あちらも翌4月6日からは273系で運行されることになっています。
鳥取県に入り、18時54分に列車は生山駅へと到着。ここでは停車駅のためドアが開くとともに、特急〔やくも28号〕との行き違いのため6分間ほど停車します。
気分転換も兼ねて車外へ出てみますと、ホーム上の足元には273系のイラストが描かれた新たな乗車位置ステッカーも確認できました。「4/6~」と書かれた緑色の養生テープは今夜のうちに剥がされることでしょう。
最後部にあたる岡山側の号車の顔はパノラマではなく普通の国鉄顔で、薄紫の塗装が夜の生山駅に映えます。ヘッドマークにも「スーパー」の文字が入っています。
〔スーパーやくも〕は、1994年から2006年にかけて〔やくも〕の一部のうち停車駅を絞った速達便に充てられていた名称です。岡山~出雲市駅間の所要時間は2時間50分程度であったとされていますが、現在の〔やくも〕が3時間5~10分程度であると考えるとそれほど大きな時間差はないようにも思えます。まさにそれこそが、統合の大きな理由の一つでもあるのでしょう。
19時00分、列車は生山駅を発車。その先の江尾駅では運転停車を行い、普通列車と行き違いを行いました。
19時35分頃、定刻よりも3分ほど遅れて伯耆大山駅に到着。ここからはいよいよ山陰本線の旅となります。対向のホームには特急〔やくも30号〕岡山行が運転停車を行っていました。あちらは「緑やくも」と呼ばれるリバイバル塗装です。
米子駅を発車し、列車は鳥取県から島根県へと入ります。ちょうどこの付近で寝台特急〔サンライズ出雲〕東京行とすれ違いました。
車内には謎の透明な部屋もあり、おそらく喫煙室か公衆電話ブースとしてかつて使われていたものでしょうか。様々な設備の跡から、この車両がいかに長く活躍してきたかを窺い知ることができるものです。
列車は松江、宍道と停車しいよいよラストスパート。
途中駅での乗降も多く、短い区間のみ乗車してスーパーやくも色との最後の別れを惜しむ鉄道ファンも多く見受けられるものの、総じて全区間で混むことはなく、ある意味いつも通りの平穏な金曜日の夜を迎えています。
スーパーやくも色はこの列車をもって完全に引退、そして381系自体もあと2ヵ月ほどで引退を迎えることになります。
私自身も国鉄が存在していた当時はまだ生まれておらず、当時の鉄道風景を懐かしむことができる世代ではありません。しかしそんな我々の世代にも、国鉄時代の鉄道風景がどのようなものであったかを垣間見させてくれる貴重な存在こそがこの「381系」に代表される国鉄車両でした。
岡山地区では、2023年より普通列車227系「urara」もデビューしました。令和に入り、中国地方のJR各線の顔ぶれが少しずつ変化してきており、現在はまさにその過渡期にあたります。去る者を追うだけが鉄道趣味ではありませんが、思い出の詰まった車両には自然と惜別の情が募るものです。
20時29分頃、列車は定刻よりも3分ほど遅れて終点の出雲市駅に到着。ホーム上では273系デビューに合わせて新たに設置された雲の形の駅名標が出迎えます。
381系から273系へは段階的に置き換えが進められ、5月の大型連休明けからは全15往復中10往復が273系での運用になります。詳しくはJR西日本のプレスリリースをご確認ください。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。