わたかわ 鉄道&旅行ブログ

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【甘すぎた見通し】たった15年で廃止…新交通システム「桃花台線」廃線探訪

 

2023年6月30日(金)

本日は愛知県にある名鉄小牧線小牧駅へとやってきました。

突然ですが皆さん、「新交通システム」と聞くとどのような路線を思い浮かべるでしょうか。

多くの方のイメージとしては「従来の鉄道と異なる運行システムを取る、次世代型の輸送システム」といったところでしょう。一口に「新交通システム」といっても、その運行方式は様々です。

国内では主に以下の例があります。

【首都圏】ゆりかもめ日暮里・舎人ライナー金沢シーサイドライン埼玉新都市交通伊奈線ニューシャトル)/山万ユーカリが丘線西武山口線

中京圏名古屋ガイドウェイバスゆとりーとライン)/愛知高速交通東部丘陵線リニモ

【関西圏】Osaka Metro南港ポートタウン線神戸新交通ポートアイランド線六甲アイランド線

山陽地方広島高速交通アストラムライン)/スカイレールサービス

これらの路線は概ね1990年代以降に開業したものが多く、そして当然ながら2023年現在も営業運行が続けられていますスカイレールサービスは2024年4月で廃止予定)。

しかしここ小牧には、何と開業からわずか15年ほどで廃止になってしまった悲運の新交通システムがあります。

それが桃花台新交通桃花台線ピーチライナー)」です。

桃花台新交通桃花台線は、小牧~桃花台東駅間(7.4キロ)を結んでいた新交通システムです。1991年3月25日に開業し、当時鉄道空白地帯であった桃花台ニュータウンにとって新交通システムは大変画期的な乗り物でした。

しかし開業直後こそ注目を集めたものの、その後の利用者数は当初の想定に届かず、苦しい経営が続きます。輸送密度は概ね1,500~2,000人/日程度の年が続き、これは国鉄再建法に基づく特定地方交通線の廃止基準にあたる4,000人/日を大きく下回る水準でした。運賃値下げのほか、利用促進を図る委員会等も設置され今後の在り方が検討された結果、2006年9月30日の最終運行日をもってわずか15年半の歴史に幕を下ろすことになったのです。

廃止に至る要因や経緯は様々ですが、今回はそれを紐解きつつ、桃花台線廃線探訪をしていきたいと思います。廃止から17年が経過した今、沿線の様子はどのようになっているのでしょうか。

まずは早速、小牧駅から。名鉄小牧線と接続し、桃花台線の起点となっていた駅です。

小牧駅のメインである西口とは反対側、東口の名鉄駅舎の隣に桃花台線小牧駅がありました。しかし現在は駅舎・ホームとも一通り撤去され、跡地は駐輪場や駅前広場になっています。

また、小牧駅において必ず見ておきたいのがループ線の跡地です。

桃花台線は終点の駅で正反対の方向に折り返すのではなく、小牧駅桃花台東駅それぞれに設置されたループ線をぐるっと一周走ることで列車の進行方向を変えていました。この方法は現在の埼玉新都市交通伊奈線ニューシャトル)大宮駅でも用いられています。

しかし桃花台線が廃止された今、これをいつまでもとっておく必要はありません。少しずつ撤去作業が進んでおり、小牧駅ループ線は今やその半分ほどしか残っていません。残る部分についてもそう遠くないうちに完全に撤去されるでしょうから、部分的とはいえ当時の貴重な構造が見られるのも今のうちというわけです。

一方で小牧駅から桃花台方面を見てみますと、高架橋がほぼ廃止当時のまましっかりと残されています。廃止から17年が経過した今でもこれほどはっきりと構造物がそのまま残っている廃線跡はかなり珍しい気がします。

ではここから、なるべく桃花台線のルートの通りに小牧から桃花台ニュータウンへと移動していきたいと思います。

まずは小牧駅から一つ隣の小牧原駅まで、名鉄小牧線を利用していきます。名鉄小牧線小牧駅の改札口は地下にあり、ホームはさらにそれよりも深い位置にあります。

駅構内の看板や案内サイン類を細かく見てみましたが、桃花台線が運行されていた当時の名残を見つけることはできませんでした。

名鉄小牧線は、日中15分間隔での運行で全て普通電車です。本数自体は何とか生活利用にそれほど困らないレベルですが、何よりも致命的なのは「名鉄名古屋駅に直接乗り入れていない」点です。

名鉄」と聞くと、あらゆる支線が全て本線へと合流して名鉄名古屋駅に入っていくイメージをお持ちの方も多いと思います。しかし小牧駅を通る名鉄小牧線名古屋駅に直接乗り入れておらず、名古屋市内に入ってから地下鉄を何本も乗り継ぐ必要があるのです。

かつて名鉄小牧線上飯田駅を始発・終着として運行されており、名鉄小牧線沿線から名古屋市中心部へ出るには「上飯田駅から路線バスに乗り換える」か「上飯田平安通駅間を徒歩で移動し名城線に乗り換える」必要がありました。実はこのアクセスの悪さが桃花台線の利用者低迷にもつながったとされています。

鉄道空白地帯である桃花台ニュータウンから主要駅への距離を見てみると、直線距離としては小牧駅が最も近いことが分かります。しかしその小牧駅を経由しても名古屋駅に直接アクセスすることはできず、利便性はいまひとつでした。一方でJR春日井駅高蔵寺駅小牧駅と比べやや距離があるものの、その先JR中央線が直接名古屋駅へと乗り入れるため、このルートの方が利便性が高かったとされています。

桃花台線自体にも桃花台高蔵寺間の延伸計画がありましたが、実現には多額の費用がかかるとして計画は凍結。現在も桃花台~春日井・高蔵寺間にはそれぞれ路線バスが多数運行されています。

何はともあれ、小牧14時15分発の名鉄小牧線 普通 犬山行に乗車。帯の色が地下鉄上飯田線と同じピンク色になっていますが、車両自体は名鉄の車両です。

地下ホームの小牧駅を出ると、列車は徐々に地上へと上がってきます。名鉄小牧線は単線ですが、小牧駅をはじめ一部の駅で列車交換ができるようになっています。

単線となっている名鉄の線路の左隣に見えてくるのが桃花台線廃線跡です。この辺りでも高架橋は途切れることなくそのままの状態で残っています。

2分ほどで小牧原駅に到着。ちょうど名鉄のホームの真上をカーブするように走っているのが、桃花台線廃線跡です。

小牧原駅の外に出てきました。画像左側が桃花台線、右側が名鉄小牧線の高架となっています。

1960年代には既に無人駅で、ターミナル駅である小牧駅と比べると必要最小限のコンパクトな造りであることが分かります。駅周辺には住宅が多く、駅の利用者数自体は近年増加傾向にあるようです。

小牧原駅前から小牧駅方向(南)を望みます。桃花台線の高架の方が高い位置を走っており、その途中に少し膨らみのある区間がありますが、あの辺りが桃花台線の小牧原駅跡地かと思われます。名鉄小牧線の駅とは若干離れていることが分かります。

犬山・桃花台方面に目を向けると、ここ小牧原駅を出た先で名鉄小牧線とは線路が離れていく様子を確認することができます。繰り返しになりますが、廃止から17年もの月日が経過していながらこれほどしっかりとした鉄道遺構が見られるのは貴重というほかありません。

ここから先、桃花台線はしばらく国道155号線沿いに進んでいくことになります。

ここから先は「ピーチバス」を利用します。これは桃花台線廃止のタイミングに合わせて運行を開始したあおい交通の鉄道代替バスで、小牧市中心部~桃花台ニュータウンを結ぶという点では従来の桃花台線と同じです。しかし途中に細かく停留所が設けられているほか、桃花台ニュータウン内で小回りのきく運行となっていることから、桃花台線と比べ沿線利用者のきめ細かなニーズに対応できるようになっています。

小牧原駅前14時43分発のピーチバス 桃花台循環がやってきましたので、乗車していきます。

なおSuicaPASMOTOICAmanacaをはじめとする全国相互利用の交通系ICカードは利用できません。原則として現金払いになりますので、前もって小銭を準備しておきましょう。運賃は区間によって異なり、160円~300円となっていますが、前乗り・後降りで乗車時に降車停留所を申告し、運賃を先払いで運賃箱へ投入する仕組みになっています。

バスは定刻通りに小牧原駅前を発車。「小牧原駅北」の交差点を右折し、国道155号線に入ります。

国道沿いには「東田中駅」と「上末駅」の2駅の跡地があります。今回それぞれの場所で降りることはしませんでしたが、東田中駅付近では板で塞がれた駅入口の様子をバスの車内から確認することができました。

10分ほど揺られ、桃花台西停留所で下車。バスの車内は数名の乗客がいましたが、桃花台西で下車したのは私一人だけでした。

停留所の名称からも分かる通り、ここは桃花台西駅のあった場所のすぐ近くとなります。何と驚くべきことに、この桃花台西駅は駅舎・ホームとも廃止当時からほとんど変わらずそのままの状態で残っています。道路側から見える外壁の部分には「桃花台西駅」と書かれた文字も確認することができ、廃止から長い年月が経過しているもののまるで今でもこの駅が営業しているかのようです。

歩道橋を渡り、道路と反対側の位置に回り込んできました。ここがちょうど駅舎の正面出入口であったと思われます。シャッターは下りたままで、雨風にさらされ劣化は進んでいるものの、フルスクリーン式ホームドアを備えた当時としては最新鋭のホームも当時のまま残されており、これが間違いなく駅の跡であることは誰の目にも明らかです。

一般的に鉄道路線が廃止されると、駅舎は早々に取り壊され再開発されるか、あるいは丁寧に修復して当時の様子を後世に伝える役割を果たす施設として第二の人生を歩むかのいずれかが多い気がします。しかしここ桃花台西駅はそのどちらでもなく、単にこの17年間もの間とりあえず放置されているだけというような気がします。シャッターを開けると当時の改札口や券売機等の設備も残っていたりするのでしょうか…。

ここからはいよいよ「桃花台ニュータウン」の中を実際に歩いていきたいと思います。

桃花台ニュータウンは1980年に入居開始となり、徐々に人口が増加。2000年代に入ると人口はピークを迎え、その時の人口は2万7~8000人ほどであったとされています。近年では2万2000人ほどで落ち着いており、残念ながら今後大幅な増加は見込まれていません。

ニュータウン内に入ってからも引き続き桃花台線の高架橋は残っており、桃花台西駅を出ると線路は大きく右にカーブをします。平日の昼間ということもあってか、歩行者の姿はあまりありません。

ホームセンターやドン・キホーテが見えてくると、いよいよ桃花台ニュータウンの中心部となります。余談ですが、ちょうどこの辺りから天候が急変し、持参していた折り畳みの傘が全く役に立たないほどの猛烈な豪雨に襲われる事態となりました。

ドン・キホーテの隣には大型商業施設「ピアーレ」があります。このピアーレの正面に位置するのが、桃花台センター駅の駅舎です。

名前の通り、桃花台ニュータウンの中心部にあたるこの駅。こちらも状況としては桃花台西駅に似ており、駅舎がシャッターを下ろしたそのままの状態で残っています。ただし桃花台センター駅のホームは地下にあるため、その様子がどのようになっているかを外から窺い知ることはできません。

桃花台センター駅前のロータリーはそのまま残っており、現在もこまき巡回バスが使用しています。なお、ピーチバスの停留所はここではなく県道195号線沿いとなっているので注意が必要です。

雨宿りを兼ねてピアーレの館内で少し休憩をしていましたが、この豪雨がやむ気配もなく…仕方ないので傘をさして歩き続けることにします。

起伏のある桃花台ニュータウンでは、先ほどまでいた「桃花台センター」がちょうどてっぺんの部分にあたります。すなわちここから先、桃花台東駅付近へ向かって歩いていく道は下り坂となります。

桃花台センター~桃花台東駅間では、高架橋が途切れ途切れになっている区間もありました。少しずつ設備の撤去が進んでいるのを感じます。

また、この付近では中央自動車道と交差します。中央道には「中央道桃花台」というバス停が設置されており、新宿・甲府・長野等を目指す長距離高速バスが停車します。鉄道空白地帯でありながらドアツードアで東京へも行けると考えれば、住環境としての利便性は大変高い気がします。

中央道をくぐりさらに歩くと、いよいよ桃花台線の終端部が見えてきました。桃花台東駅は画像右側の小高い丘の上にあったものと思われ、その先で小牧駅と同様にループ線が設けられています。小牧駅ループ線も十分ダイナミックなものでしたが、ここ桃花台東駅では起伏のある地形の途中に設けられているため、ループ線の高さが地上からかなり高いのが大きな特徴です。

階段を上り、桃花台東駅の跡地へとやってきました。こちらは桃花台センター駅と同様にロータリーが現在も使われています。名鉄バスの停留所は「桃花台東」という名称ですが、ピーチバスでは同じロータリーを使用して「大城」という名称が用いられています。

桃花台東駅では駅舎・ホームとも完全に撤去されており、さらにその先のループ線の撤去工事も着々と進められているようでした。小牧駅側と同様に半分ほど残っているループ線ですが、本年度内には完全に見納めとなるようです。

バス路線の新設と比べると、その初期投資が巨額となる傾向にある鉄道路線の新規敷設。

せっかく長い工期を経て開業したにもかかわらず、短命に終わることになったのか。

その要因を一言でまとめると「利用者数の見通しが甘かった」という点に尽きます。

序盤でも述べた通り、小牧駅へと抜けて名鉄小牧線に乗り換えるよりも春日井駅高蔵寺駅へと抜けてJR中央線へ乗り換えるルートの方が利便性が高いことは言うまでもありません。しかし何と驚くべきことに、こうした競合する他の交通機関の存在を考慮することなく桃花台線単体で利用者数の見込みを立て、黒字となる試算で工事が進められていたとされています。

もちろん桃花台から小牧市中心部へ通勤・通学する利用者も一定数おり、そうした乗客にとっては利便性の大幅な向上に繋がったことでしょう。一方でこの桃花台線の存在によって桃花台春日井駅間を結ぶ路線バスについては小牧市の認可が下りず、2002年には住民らの手によって同区間に会員制バスの運行が開始されるほどでした。

また前提として、桃花台ニュータウンは当初5万人の入居を見込んでいましたが、実際にはピーク時でもその50~60%程度にしか届いていません。入居者のうち30%が利用すると見込んでいた桃花台線も、実際には6%程度であり、当初の試算通りの収益を上げることはもはや不可能に近い状態でした。

こうした状況から、2000年代に入ると度重なる経営改善策の策定や経費削減等が行われるようになります。また2003年には地下鉄上飯田線の開業により、名鉄小牧線と1本のレールで結ばれたことで桃花台線存続の追い風となるかに思われましたが、事態が大きく好転するまではいかず、その15年半の短い歴史に幕を下ろしたのでした。

廃止後は高架橋を自動車の走行レーンとして再活用する計画も持ち上がりましたが、愛知県は2015年に全線撤去の方針を固め、それからは少しずつ撤去工事が進められています。

桃花台から春日井駅まで、私も名鉄バスの路線バスを利用して移動してみました。小牧~桃花台の移動と比べると距離が長く時間はかかるものの、利用者は非常に多く、この地域においては新交通システムよりも充実した路線バス網であることを再認識いたしました。

桃花台線の各種設備は急ピッチで撤去が進められているところですので、見ておきたいという方は今のうちに是非足をお運びください。

 

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。