2023年4月4日(火)
本日は上野駅にやってきました。1883年に「日本鉄道」のターミナル駅として開業してから今年で140周年の節目を迎えます。
長らくこの上野駅は、東北・上信越地方と東京を結ぶ長距離列車の玄関口としての役割を果たしてきました。この140年の歴史の中で人々の思いに深く刻まれた名列車は数知れず…しかし時代の流れには逆らえず、そうした列車のほとんどは今では過去のものとなっています。
2015年には上野東京ラインも開業し、それまで上野で折り返し運転を行っていた特急列車・普通列車の多くが今では品川方面へと乗り入れるようになりました。便利な反面、かつてのターミナルとしての面影は薄れつつある今日この頃です。
そんな上野駅から、今回乗車するのは上野18時00分発の特急〔あかぎ1号〕鴻巣行。
えっ…特急なのに鴻巣行…? って思いますよね。
上野を発車する高崎線特急〔あかぎ〕号ですが、何と先日のダイヤ改正にて1日1本だけ「鴻巣どまり」の列車が誕生したのです。運行距離は50kmにも満たない距離で、これはJR東日本の在来線特急としては最短です。
14・15番線ホームへ向かってみると、〔あかぎ1号〕が発車するのとは逆の14番線で列車を待つ人がかなり多いのが分かります。これは〔あかぎ1号〕の4分後(18時04分)に上野始発で運行される普通列車 高崎行を待つ人の列で、全車指定席の高崎線特急とは異なり普通列車は着席保証もないためかなり早い時間から多くの人が並んで待っていることが分かります。
2023年のダイヤ改正で高崎線特急は大幅なリニューアルが加えられ、〔あかぎ〕が平日・土休日とも高崎線内完結の特急として運行されるようになりました。もとよりかつては平日・土休日を問わず〔あかぎ〕でしたが、2014年に〔スワローあかぎ〕が誕生したことで一時的に平日・土休日の列車名が異なる状態でしたので、9年ぶりの原点回帰ともいえます。
使用車両はE257系のリニューアル編成(5両編成)で、全車指定席。グリーン車はありません。上野駅の地上ホームにE257系が頻繁に入線するようになったのはつい最近のことですから、なかなかまだ不思議な感覚があります。
そして何よりもこの目を引く「鴻巣行」。
実はかつて、高崎線では〔ホームライナー鴻巣〕という列車が運行されていました。上野発鴻巣行で平日1日4本が運行され、その初便は上野18時00分発の〔ホームライナー鴻巣1号〕であったとされています。ちょうど現在の〔あかぎ1号〕と同じ時刻です。
「鴻巣行は中途半端で短すぎるのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、高崎線内における特急停車駅の乗車人員(2021年度)を比較してみると非常に興味深いことが分かります(グラフは筆者作成)。上のグラフに示した各駅はいずれも〔あかぎ〕の停車する各駅で、JR東日本の発表している数値に基づき「定期外」「定期」に分けて整理してみました。
やはり東京都心に近い上尾は際立って乗車人員が多く、そこから離れるごとに少しずつ減っていきます。そして熊谷を過ぎるとその値はぐっと小さくなり、とりわけ優等列車の需要が高いのは熊谷までであろうことが想像されます。
しかも熊谷駅は上越・北陸新幹線が停車するため、都心方面との移動には新幹線という選択肢もあります。上野~熊谷駅間は在来線で約1時間かかるところ、新幹線なら30分程度で移動できてしまうため、利用者数が多い駅だからといって必ずしも在来線がその受け皿の全てを用意する必要はありません。もとより、上に示した乗車人員は新幹線を含めたものですから、そもそも数値として周辺の各駅よりも大きいのはごく自然なことでしょう。
そうとなればいよいよ〔あかぎ〕は熊谷まで走らせる必要性さえも薄くなり、その手前にある「鴻巣まで」の運行となることはごく自然な流れといえます。
発車間際ともなりますと、外から見る限りかなり乗車率は高そうな様子。なおこの列車に乗らずに15番線ホーム上で並んで待っている方の姿もありますが、おそらくこのあと18時19分にこのホームを発車する宇都宮線の当駅始発列車を待っているのだろうと思います。
座席のモケットは青色を基調としており、房総半島で500番台として活躍していた頃から特に変更はなされていないようです。ただし後付けで窓側にコンセントが備え付けられております。
18時00分、列車は定刻通りに上野駅を発車。この先赤羽、浦和、大宮、上尾、桶川、北本へと停車していきます。この時間帯でもまだ明るさが残る季節になりました。
なお先ほども述べた通り乗車率はかなり高く、上野を出た時点で窓側はほぼ満席、加えて通路側も一部埋まっているようでした。発車間際に特急券を慌てて購入しようとすると希望の座席を確保することが難しい場合もあるかもしれません。
乗客の大半は仕事帰りと思われるビジネス客で、列車の性質上やはり男性が多いです。自席で缶ビールを開け、おつまみに手をのばす人の姿もあり、普通列車のロングシートではまずできない至福のひと時を過ごされています。
なお頭上をご覧いただくと分かる通り、この車両には空席状況を示すランプが設置されていません。ただ当日有効な座席未指定券を所持していれば指定席の空席を利用できることになっていますので、様子を伺いつつ空席を探して腰掛ける必要があります。もちろんいったん腰掛けた席であっても、途中の駅からその座席の指定を受けた乗客が乗ってきた場合には譲らなければいけません。
各座席に背面テーブルが備わっていますので、飲食やパソコン作業等も気兼ねなくできます。最新型の車両ではないため、多少の黄ばみがあるのは致し方なしといったところでしょう。
なお特急料金ですが、全区間乗車しても50km未満となるためわずか760円。繁忙期・閑散期等の区別もなく、通年でこのお値段です。〔ホームライナー鴻巣〕のライナー料金が500円であったことを考えると若干の値上げとはなっていますが、当時使用されていた185系と比べると車内設備や快適性が大きく向上したほか、2014年・2019年と2度に渡る消費税増税があったことも鑑みれば十分許容範囲といえると思います。
まず最初に停車するのは赤羽駅。こちら、ホームライナー鴻巣時代には通過していた駅です。
さすがに上野から乗車して赤羽で降りるという方はいませんでしたが、逆に乗車される方は数名いらっしゃいました。渋谷・新宿・池袋方面から埼京線等で赤羽まで移動し、ここから特急に乗り込んで快適に帰宅することができるという需要もあるのではないでしょうか。
荒川を渡り、列車は埼玉県へと入ります。
横を走る京浜東北線を何本も追い越していきます。車内は立ち客も多数いるほどの混雑ぶりで、〔あかぎ1号〕の車内の快適性とは雲泥の差があります。
次に停車したのは浦和駅。こちらはライナー時代から停車していました…が、降車専用駅でした。
そう、一般的にライナーは「乗車専用駅」「降車専用駅」がそれぞれ決まっており、末端区間のみでは乗車ができないようになっていました。浦和というと東京都心寄りの駅のような気もしますが、ライナー時代には上野~浦和駅間の利用はできても浦和~鴻巣駅間のみの利用はできなかったのです。
実際のところ、やはり浦和から乗車される方はほとんどいませんでした。少なくともこの列車は鴻巣までしか行かないことを考えると、ここから乗っても乗車時間は最大せいぜい30分程度ですから、特急料金を払ってまで浦和から〔あかぎ1号〕に乗ろうという方はあまりいないのかもしれません。
18時27分、列車は大宮駅へと到着。ここまでの所要時間はライナー時代と全く同じです。
国鉄時代~JR初期には「ホームライナー大宮」なる列車までも運行されていたほど、上野~大宮駅間のみにおける着席ニーズは昔から高いことで知られています。実際のところこの〔あかぎ1号〕でも一定数の降車はありました。しかし思っていたほど降車客は多くなかった印象です。
大宮駅を発車。時刻は18時30分を過ぎ、いよいよ辺りは本格的に暗くなってきました。
宇都宮線と分かれ、列車は続いて上尾駅・桶川駅へと停車。いずれもしっかりと降車客がおり、車内の乗客は次第に少なくなっていきます。まさにこの辺りの駅での降車客こそが〔あかぎ1号〕のメインターゲットになっているのでしょう。
さらに列車は北本駅へも停車。上尾・桶川と比較すると利用者数は若干劣りますが、それでも若干名の降車がありました。
この北本駅、特急〔あかぎ〕や湘南新宿ラインの特別快速は停車する一方で快速〔アーバン〕は通過してしまうという不思議な逆転現象が起こっている駅としても知られています。利用者数としてはこの先の鴻巣駅とほぼ同水準ですが、快速アーバンはあえて通過させることで遠近分離を図り速達性を確保しているのかもしれません。
そして北本駅を発車すると、車内の表示板には「まもなく 終点 鴻巣」の文字が。
毎日無数の列車が運行される高崎線ですが、2023年現在「鴻巣行」の列車はこの〔あかぎ1号〕を差し置いて他にありません。またかつての〔ホームライナー鴻巣〕の際は185系の車内にこのような表示板などありませんでしたので、2023年ならではの光景といえます。
上野駅を出てわずか49分後、18時49分に列車は終点の鴻巣駅へと到着。
ここまでも一定数の乗客がいましたが、すぐに全員降車し「回送」表示へと切り替わりました。
〔あかぎ1号〕の鴻巣駅到着からわずか4分後、向かいのホームには上野を4分後に発車した高崎線の普通列車がやってきます。この先北鴻巣、吹上、行田…と各駅へ移動する場合も、このように対面ホームでスムーズな乗り換えができるようになっています。
しかし冷静に考えてみると、上野を4分差で出発して鴻巣への到着も4分差ということは〔あかぎ1号〕とこの列車では上野~鴻巣駅間の所要時間が全く同じということになります。いくら「特急には通過駅がある」とはいっても、実際のところ前後の列車間隔が詰まっていることもありスピード面は普通列車と変わらず、運行区間の短さゆえ途中駅で先行の普通列車を追い越す場面もないのがこの〔あかぎ1号〕という特急なのです。
というわけで、今回は2023年のダイヤ改正で登場した「運行区間の短すぎる在来線特急」あかぎ1号についてご紹介しました。
沿線にお住まいの方で東京都心へ通勤される場合などは是非利用してみてください。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。