今回ご紹介するのは、一夜にして全ての車両を置き換えてしまったとんでもない鉄道路線です。
通常、新型車両を導入する場合は運用開始から完全置き換えまでに少なくとも数ヵ月を要します。長い場合だと年単位ということもあり、車両の置き換えというのは決して簡単なことではありません。
しかしそれを一夜にして成し遂げた稀有な路線がありました。
その路線とはズバリ、JR東日本の日光線。宇都宮~日光駅間を結ぶ路線で、2022年3月11日までは205系が活躍していました。
宇都宮駅の発車標を見てみると、日光線の列車はいずれも4両編成での運行であることが分かります。2段目の列車は後ほどご紹介する特別車両「いろは」で、改造が施されているためドア数こそ異なりますが、車両形式としては他の普通列車と同じ205系です。
首都圏で数を減らしつつある205系ですが、日光線で活躍する編成はかつて京葉線で活躍した車両で、通称”メルヘン顔”と呼ばれています。基本はレトロ調の色の帯を纏った車両による運行ですが、日光線のほか宇都宮線の宇都宮~黒磯駅間で使用される編成も入線するため、私が訪問した際は湘南色の帯を纏った車両での運用に当たりました。
205系の車内は日中でもどこか薄暗い雰囲気を感じます。製造から約30年が経過しているため、首都圏の普通列車としては最古参の部類です。
座席もまた昔ながらのフカフカの座り心地で、一人分ごとのスペースがくぼんだ最近の車両の座席とは大きく異なります。つい最近までは横浜線や南武線、埼京線等でも同様の形式の車両が走っていましたので、懐かしさを覚える人も多いかもしれません。
また、こちらは特別車両「いろは」です。ヘッドマークがついていますが、顔の形は冒頭でご紹介した一般的な205系のメルヘン顔と同じであることがお分かりいただけると思います。2018年にデビューしました。
側面をよ~く見ると、4ヵ所のドアのうち中央2ヵ所が埋められているのが分かります。この中央2ヵ所は開かないため、4ドア→2ドアへの改造が施されているというわけです。
車内は温かみのある柄のモケットが使用された2+1列のボックスシート。基本は普通列車として運用されていますが、ごくまれに指定席の快速列車として発売されることもあるようです。
…とまぁ、205系がたくさん活躍するのが2022年3月11日までの日光線だったわけです。
しかしこの様子が、一夜にして一変することになります。
宇都宮駅の発車標を見てみると…両数が「4両」ではなく「3両」になっているではありませんか!
実際の鉄道車両はプラレールと異なり1両単位で増解結して運用することはまずありませんので、これは今までの日光線に見慣れているととても違和感のある光景です。
ホームに停車する列車は、帯の色こそ従来の205系に近いものの、そのステンレスの輝き方は昨日までと明らかに違います。
そう、この日光線では、一夜にして全ての車両が「205系」から「E131系」に置き換わったのです。
今日の日光線を走った営業列車のうち、昨日も営業運転を行っていた車両は1つもありません。「日光線で今日営業運転を行った車両は、全て今日デビューしたばかり」というとんでもなく恐ろしい状況が広がっています。
E131系の車内には次の駅などの情報を表示するLCDも設置されています。205系で箱の類いのものは全くありませんでしたので、一夜にして飛躍的な進歩を遂げました。
車内は205系と比べると明るい印象を受けます。また国鉄車両では見ない裾折車体となっていることからか、空間がより広く感じます。
車体側面の行先表示器も、方向幕からフルカラーのものに大進化しました。またワンマン運転が始まり、「ワンマン」の文字が表示されるようになっています。下段に黄文字で「次は○○」と出るのも何だか都会の地下鉄らしさがあって良いものです。
途中の駅では行き違いを行う場面もありましたが、当たり前のように向こうもこちらもE131系です。何でしょうね、今日営業運転を始めたばかりなのにもうすっかりなじんでいるような気もしてきました…。
実は日光線と同じく、宇都宮線(宇都宮~黒磯)も同様に一夜にして全ての車両がE131系へと置き換わりました。こちらは見たところどの列車も6両編成の運行となり、3両基本編成のE131系が2編成連結されているようです。
また、宇都宮線ではわずかながらダイヤ改正前まで熱海・品川・上野~黒磯駅間を直通する運用も残されていました。特に熱海~黒磯駅間を5時間近く欠けて走破する上野東京ラインの列車はJR東日本管内で最長距離を誇る普通列車でしたが、この度のダイヤ改正にて宇都宮駅で系統分割が行われたことによりこうしたロングラン運用も見られなくなってしまいました。E231系・E233系が営業運転で宇都宮~黒磯駅間を走ることも原則としてありません。
というわけで、今回は一夜にして全ての車両が置き換わった路線として主に日光線をご紹介しました。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。