2022年8月12日(金)
おはようございます。早朝の長崎駅へとやってきました。
今回は長崎から博多まで、贅沢すぎる方法で移動していきます。
まもなく開業の日を迎える西九州新幹線。その終着駅である長崎駅では、2020年3月に在来線ホームの高架化が完了しました。それまでの地上ホームよりやや西へずれた位置に設置され、かつてホームのあった場所は更地となっています。
かつてここにずらりと並んでいた頭端式ホームには、首都圏や関西等からも寝台列車がやってきていました。しかし高架化から2年以上が経過した今となっては見る影もなく、広大な跡地を重機が往来しています。こちらは2022年8月時点での様子ですが、まだ広場の完成には程遠いようにも見えました。果たして9月23日までにある程度形になるのでしょうか。
本日乗車するのは、長崎7:26発の特急〔かもめ6号〕博多行です。発車標には「長崎本線 佐賀・鳥栖・博多方面」と明確に記されており、ここ長崎から1本の線路がしっかりと繋がっていることを実感します。
ホームに上がると、既に列車は入線していました。すぐ横が新幹線ホームとなっている5番線に入線しているのが、九州を代表する特急車両「787系」(7両編成)です。濃いグレーの車体は独特の存在感があり、前面はシャープな顔をしています。実は今年でデビュー30周年を迎える車両で、1992年に博多~西鹿児島(現・鹿児島中央)駅間を結ぶ特急〔つばめ〕として運行開始しました。
その2年後、1994年に787系は初めて特急〔かもめ〕へ投入。1990年代から2000年代にかけ何度か運用復帰と撤退を繰り返しながら、2011年には九州新幹線(博多~鹿児島中央駅間)全線開業。これに際し在来線特急〔リレーつばめ〕が廃止され、余剰となった787系は特急〔かもめ〕へ本格的に転用され今日に至ります。
近年の特急〔かもめ〕は基本的に787系もしくは885系での運用となっており、両数や車内設備に大きな違いがあることから運用は固定となっています。787系とは対照的に885系の方は真っ白な車体が特徴で、それぞれ「黒いかもめ」「白いかもめ」等と呼び分けられています。
発車時刻が近づいておりますので、早速車内へ。今回利用する設備は…!
何と最上級設備「グリーン個室」です!
1列車あたり1室しかなく、普通車や他のグリーン車の座席とは異なりプライベートな空間が保たれる完全個室になっています。
787系は、7両編成のうち長崎寄り1号車がグリーン車。その中でも「グリーン車」「DXグリーン車」「グリーン個室」の3種類があり、「SALOON COMPARTMENT」と書かれた木の扉があるのがグリーン個室になります。扉の脇には「空室/使用中」を指でスライドして切り替える表示がありました。
列車は定刻通り、7:26に長崎駅を発車。グリーン個室の窓から長崎駅の新幹線ホームを眺めることができるのも今のうちです。
長崎駅を出てすぐ、列車は隣の浦上駅へと停車。ここに新幹線のホームは設置されないため、西九州新幹線開業に伴い”割を食う”駅の一つで、博多からはこれまで乗り換えなしで来れていたところを最低でも2回の乗り換えが発生することになります。
ここで室内を物色していきましょう。壁面にはコントロールパネルがあり、スピーカーのON/OFF操作等ができるようになっています。また、トイレの空室状況が分かるのもとても便利ですね。
その横にはクローゼットがあり、中にはハンガーが1本と1着だけ衣類を掛けられるくらいのスペースがあります。複数人で利用することを想定した設備なのでいささか小さいような気もしましたが、ともかく夏はあまり使うことはないでしょう。
グリーン個室の定員は4人で、3人がけのソファと1人がけのリクライニングシートが設置されています。中央のテーブルは折り畳み式で、広げると4人で利用するのに十分な大きさとなります。
JR九州の4人用グリーン個室は、定員以内であれば何人でも利用可能となっています。この際に必要なのが「利用人数分の運賃+自由席特急料金」と「グリーン個室料金」です。
上の画像は、運賃を除く諸料金の合計が5,400円、すなわち運賃に5,400円を追加することで長崎~博多駅間でグリーン個室を利用できるということになります。この5,400円のうち、2,200円は1人分の自由席特急料金(151~200キロ)で、指定席特急料金から530円値引きした金額です。
そして残りの3,200円がグリーン個室料金(101~200キロ)となっています。グリーン個室料金はグリーン料金のちょうど2倍となっており、この個室を2人で利用すれば、1人あたりは通常のグリーン席を利用するのと変わらない料金ということになります。
残念ながら車内販売等の設備はありませんので、長崎駅改札口近くにあるファミマで朝食を購入。せっかくのグリーン個室なので豪華にいこうといろいろ奮発したら買いすぎてしまいました(笑)。いつも食べているようなパンであっても、個室で食べると5割増しで美味しく感じます。
諫早駅を発車し、しばらく進むと目の前には有明海や雲仙岳が見えてきます。この日はあいにくの天候でしたが、ふかふかの大きなソファを独り占めして大きな窓から眺めるオーシャンビューはいつもと違って見えるものです。
この諫早~肥前鹿島駅間は、全ての特急〔かもめ〕がノンストップで駆け抜けます。それもそのはず、両駅は55kmほど離れていますが、途中に特急停車の需要があるほど大きな街が存在しないのです。
今でこそ「長崎本線」は有明海沿いを通るルートで定着していますが、かつては現在の佐世保線・大村線経由のルートが「長崎本線」でした。これに対し現在の肥前鹿島経由のルートは「有明線(有明東線、有明西線)」という支線でしたが、1934年にこれが全線開業すると有明線が「長崎本線」へと編入され、同時にそれまで本線だった方のうち肥前山口~早岐駅間が「佐世保線」、早岐~諫早駅間が「大村線」という現在の形になりました。
9月23日以降、諫早~肥前鹿島駅間を走る定期特急列車は1本もなくなります。列車の待避や行き違いがぐっと減るでしょうから普通列車の表定速度が上がり沿線の利用者にとっては便利になる反面、鉄道ファンとしては些か残念な気持ちにならずにはいられません。
肥前鹿島駅では、長崎へと向かう下り特急〔かもめ5号〕と行き違いを行いました。ホーム上では一瞬ながら787系が並んだということになります。
ここ肥前鹿島駅は、新幹線の線路から大きく離れており、新幹線の直接的な恩恵を受けることはありません。しかし新幹線開業によって特急〔かもめ〕は廃止されてしまうので、代わりに肥前鹿島発着の特急〔かささぎ〕を運行することで博多方面への足を確保することにしています。1面2線でそれほど線路容量に余裕があるようには見えない駅ですが、この駅を始発・終着とする特急列車が本格的に運行されることになるわけです。
まもなくすると、列車は佐世保線と合流する肥前山口駅へと到着。9月23日からこの駅は町名と同じ「江北駅」に名を改めることになります。
1895年に「山口駅」として開業したこの駅は、1913年に山口県内に同名の駅が誕生したため「肥前山口駅」へと改称。今年、その駅名は実に109年の歴史に幕を下ろすことになります。
続いて佐賀県の県庁所在地、佐賀駅に到着。特急を利用して博多~佐賀駅間を移動した場合、所要時間は40分程度となっており、フル規格新幹線の必要性が薄いと主張するのも頷ける気がします。
G個室で自撮りする陰キャ pic.twitter.com/EP7IAyhJKc
— わたかわ (@e235yokoso) 2022年8月12日
長崎を出てからここまで約1時間半が経過しましたが、いっこうに疲労のたまる気配がありません。それもそのはずで、こんなにも広い空間を一人で占有しているのですから、人目を気にせずゴロゴロし放題です。複数人で乗る場合にも、うるさくなり過ぎないよう注意すればそれなりに人目を気にせずおしゃべりしながら過ごすことができ、良い思い出になりそうです。
九州新幹線の高架が見えてくると、まもなく列車は新鳥栖駅に到着。西九州新幹線が博多方面へと繋がる暁にはここ新鳥栖が合流・分岐地点となりそうですが、その目途は全く立っていません。
車窓右手に駅前不動産スタジアムが見えてくると、鳥栖駅に到着して長崎本線は終わりとなります。この先は鹿児島本線へと乗り入れ、いよいよ終点博多駅を目指します。
沿線には住宅も増えてきて、いよいよ都会が近づいてきていることを実感します。一部の特急〔かもめ〕は二日市駅に停車するものがありますが、今回乗車している特急〔かもめ6号〕は鳥栖~博多駅間ノンストップです。
博多駅入線直前には、熊本方面へと向かう新幹線〔つばめ〕や普通列車とすれ違い。
次々発車していく列車に加え、背後にはヨドバシカメラも見え、一大ターミナル駅へと入っていくのを実感します。
列車は定刻通り、9:24に終点の博多駅へと到着。
長崎から博多まで、約2時間の贅沢な移動を堪能することができました。
さて、まもなく開業する西九州新幹線。
それに伴い、今日まで走ってきた在来線特急〔かもめ〕はその長い歴史に幕を下ろします。
西九州方面への在来線特急列車として運行を開始したのが、今から46年前の1976年。
しかしそれよりもさらに前から「かもめ」という列車名は存在しており、元を辿れば戦前の1937年に東京~神戸駅間で運行開始した「鷗」の登場から数えると実に85年も前から存在してきた在来線の格式高い列車名であると言えるでしょう。
そんな「鷗/かもめ」は、まもなく在来線の線路を離れ、新幹線としての歴史に新たな1ページを刻もうとしています。
不安なことも多い、今の時代。
決して誰もが、この新幹線の開業を心の底から喜んでいるわけではないかもしれません。
しかし、地元にとって長年の悲願であった夢の超特急。
これまでよりも、早く、快適に。
大きな期待に、胸をふくらませて。
嬉しくてたまらない日々がやってくると信じて。
その雄姿が、沿線に新たな風を運んでくれることを願って。
その瞬間を、私は楽しみに待ちたいと思います。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。