わたかわ 鉄道&旅行ブログ

乗り鉄&旅好きの20代男子が全国を巡る!

【人吉へは行きません】期間限定? 鹿児島本線を走る「SL人吉」の旅

 

2022年8月11日(木)

今回やってきたのは熊本駅。これから、鹿児島本線を走るとある観光列車へと乗車していきます。

2011年には九州新幹線(鹿児島ルート)が全線開業し、その後在来線ホームも順次高架化されすっかり新たな姿へと生まれ変わった熊本駅。近年では駅周辺に新たな商業施設等も建設されはじめ、街の中心にも負けじと開発が行われています。

そんな熊本駅から本日乗車するのは、10:50発の〔SL人吉鳥栖です。熊本~鳥栖駅間で週末を中心に1日1往復運行されている観光列車で、今回はせっかくなので全区間乗車していくことにします。

6番線ホームで待っていると、向こうから汽笛を鳴らしてSLが入線してきました!

ホーム上は大変な人だかりで、その視線はみな一点に集まっています。

SL人吉〕に使用される機関車は、「8620形蒸気機関車58654機」と呼ばれるもの。製造されたのは何と今からちょうど100年前の1922年のことで、長崎本線唐津線等九州内の様々な路線で運用に就きました。1975年にいったん運用が終了され廃車となりましたが、その後1988年に復活し今に至ります。

使用されている客車は「50系客車」で、1970~80年代に製造されたもの。その後幾度かの改造が施され、現在は3両を繋いで「SL人吉」として運行されています。

ホーム上の発車標にも「3両」と表示されていますが、これはあくまでも客車の両数のみを示したもの。実際にはこれに加え、先頭に先ほどご紹介したSL1両、そして最後尾にはDL(ディーゼル機関車)が1両連結され計5両での運行となっています。

列車は定刻通り、10:50に熊本駅を発車。真っ黒い煙を上げながら都市部の高架線を進んでいく光景はそう見られるものではありません。

発車直後、乗務員等の紹介があります。通常、新幹線や特急列車であれば紹介されるのは「この列車の運転士は○○、車掌は○○です。…」といった感じですが、このSL人吉では「機関士は○○、機関助士は○○…」といった紹介のされ方になっていました。普段乗車する特急列車等では「機関士」などまず聞くことができません。

客車自体は非常に古いものですが、内装は度重なるリニューアルによりレトロな空間が演出されています。4人がけのボックスシートと2人がけのクロスシートが混在しており、お盆ということもあって大変賑わっています。

私は1人での乗車だったので、何とか2人がけの区画を確保。相席になることも覚悟していましたが、隣に見知らぬ人が乗車してくるということはありませんでした。

各座席の前方には大きめの木のテーブルが設置されており、お弁当等を広げるのにもちょうど良いスペース。古い客車ですが板張りの座席というわけではなく、リクライニングはしないもののふかふかの座り心地になっています。私の座席はチェック模様のモケットでしたが、号車によっては革張りの座席になっているところもあるようです。

なお各座席にコンセントはありませんが、車内ではJR九州のフリーWi-Fiに接続できます。見かけは古くても時代に合わせしっかりと設備が整えられているといった印象です。

ところで、この「SL人吉」の運行区間は熊本~鳥栖駅間で、全区間鹿児島本線を通ります。なぜ人吉へ行かないのに「人吉」とついているかというと、実はかつてこのSLは熊本~人吉駅間で運行されていたからなんです。

本来の「SL人吉」の運行区間は上の地図の灰色の線で示された区間で、熊本~八代駅間は鹿児島本線、その先人吉までは肥薩線を通るルートでした。しかし2020年7月に発生した豪雨災害の影響で肥薩線の復旧は絶望的な状況となっており、それならばと人吉の代わりに鳥栖へと向かうルートにて2021年5月より運行が再開されたのです。

SL人吉は3両とも普通車指定席で、列車種別上は「快速」となっています。すなわち乗車券に「指定席券」を追加購入することで乗車可能です。このように書くと、てっきり「+530円なのか」と思ってしまいがちですが、実際にはSL人吉の指定席券は何と1,680円。特急料金並みの高価な設定になっています。

実は、熊本~人吉駅間で運行されていた頃の指定席料金は840円でした。しかし熊本~鳥栖駅間での運行が始まるにあたり料金が改訂され、倍額となった経緯があります。「普通・快速列車の指定席」と考えると割高に見えるかもしれませんが、よく考えてください。SLは100年前、客車も50年近く前に製造され、度重なる改造や保守・整備の手間をかけながら運行されているものにたったの1,680円で乗れてしまうのです。むしろこれでも安すぎる気さえしてきます。

列車はあっという間に熊本の市街地を抜け、山間部へと入っていきます。熊本市玉名市に挟まれた「田原坂」は西南戦争の激戦地としても知られ、その名は今なお駅名として残っています。

田原坂付近は鹿児島本線屈指の急勾配区間としても知られ、沿線の車窓は熊本市内から一変してとてものどか。SLが力強く煙を吐きながら進んでいく様子は魅力的です。

熊本駅を出て約40分、11:32に列車は最初の途中停車駅である玉名駅へと到着。ここでは9分間の停車時間があり、ホームに出て写真撮影等をすることができます。

玉名駅では停車時間中に機関士さんらにより石炭がせっせとくべられ、煙を上げる様子をじっくりと見ることができます。夏の暑い時期に灼熱のボイラーの前で作業されている方々には本当に頭が上がりません。

また、この玉名駅での9分間の停車時間の間に、後からやってきた11:39発の普通列車鳥栖行)を先に通します。SL人吉は曲がりなりにも「快速」という種別ですので、快速が普通に抜かされる何とも面白い光景が展開されます。SL人吉の方が普通列車より停車駅は少ないものの、あくまでも臨時列車であり駅間走行速度は普通列車に劣るため、こうして途中の駅で普通列車を先に通さないと後がつかえてしまうのです。

無事に待避も完了し、11:41に玉名駅を発車。ここで車内探検へと出てみることにします。

この客車の扉は今どき珍しい「折り戸」になっており、路線バスの前扉のように扉が半分に折れて内側へ開きます。また乗降口付近は段差があり、まだバリアフリーの概念がなかった時代に製造された車両であることもよく分かります。

一部号車の座席は、ご覧の通り先ほどもご紹介した革張りの座席になっています。布張りの座席とお値段は一緒で、こちらも普通車指定席扱い。シートピッチ等の規格は布張りでも革張りでも変わらないように見えます。

客車の先頭(鳥栖行では3号車)と最後尾(鳥栖行では1号車)には展望スペースが設けられており、乗客誰でも自由に入ることができます。SL側は人気が高く混雑している一方、DL側は空いているタイミングもありました。大きな窓から眺める筑後平野の田園風景は格別です!

また、2号車にはビュッフェ(売店が備わっており、各種スイーツやドリンク、限定グッズ等を手に入れることができます。ここで購入できる「86(ハチロク)弁当」という限定駅弁は残念ながら発車後早々に完売してしまったようですが、車内での優雅なひとときにせっかくなので人吉の名物「焼酎アイス」(350円)を購入。アルコール分は1%以下で子どもでも食べられるようにできていますが、焼酎の風味をしっかりと味わうことができる一品です。

3号車の一角には「SL文庫」と名付けられたフリースペースもあります。車内の乗客を見ていると、お盆という時期柄もあってか鉄道ファン以上に親子連れが多い印象でしたのでこうしたコーナーも需要がある…と思いきや、残念ながら棚の中は空っぽで本は1冊も用意されていませんでした。感染症対策でしょうか。

列車は荒尾駅を通過し、いよいよ熊本県を抜けて福岡県へと入ります。この辺りからはいよいよ福岡都市圏を走る普通・快速列車も多数乗り入れる区間へと入っていきます。

12:14に列車は大牟田駅へと到着。福岡県南部有数の都市で、西鉄も乗り入れる大きなターミナル駅です。

ここでの停車時間はわずかのため、本来ホーム上での写真撮影は控えるべきところですが、ここから乗車する予定のとある家族連れが写真撮影に熱中するあまりうっかり乗り遅れ、再開扉の後に何とか乗り込むことができたというハプニングもありました。時刻表と発車時刻はしっかり確認し、くれぐれも乗り遅れることのないように気をつけましょう。

12:15に大牟田駅を発車し、列車は筑後平野を進んでいきます。ふと窓の外を見ると黒さがはっきりと肉眼で確認できるほど勢いよく煙を上げて走っており、周辺にお住まいの方にとっては何か悪影響はないのだろうか…と少々心配になってしまうほどでした(笑)。

環境問題やSDGsが叫ばれる昨今、SLが時代に逆行する乗り物であることは言うまでもありません。しかしそんな中でも、ステークホルダーからの批判を顧みず(?)このようにSLを運行してくださることは鉄道ファンの一人としてとても嬉しく思います。

筑後船小屋駅付近からは新幹線とぴったり並走するようにして走る区間へと入ります。こちらは1922年製のSL、それに対し向こうは2011年に開業した新幹線の高架橋です。時代のギャップが激しすぎて耳がキーンとしそうです。いやしないけど。

いよいよ沿線の車窓も都会的になってきたところで、列車は荒木駅で5分間ほど運転停車。ここでは13:00発の区間快速鳥栖行)を先に通します。「快速が区間快速に抜かされる」というまたもや面白いシチュエーションです。

13:12には久留米駅に到着。ここを出ると次は終点の鳥栖となります。

久留米駅は新幹線への接続があるためか、ここで降りていかれるお客さんも一定数いらっしゃいました。なお西鉄にも「西鉄久留米駅」がありますが、JRの駅からは離れていますのでその場合は先ほどの大牟田駅の方が便利かと思います。

車窓右手に多数の留置線と「駅前不動産スタジアム」が見えてくれば、鳥栖駅はもうすぐです。

そして定刻通り、13:24に終点の鳥栖駅へと到着。熊本駅を出てから実に2時間34分に渡る”汽車旅”を楽しむことができました。

ちなみに熊本~鳥栖駅間の営業キロは89.8km。表定速度はわずか35km/時ほどで、同じ区間を走る普通列車と比べても非常にゆっくりとしたスピードで走っていることが分かります(普通列車は所要時間1時間30~40分程度、表定速度は55km/時くらい)。

ましてや新幹線であれば、熊本~新鳥栖駅間はせいぜい30分程度。文明の利器とは恐ろしいものです。

肥薩線の復旧に関しては見通しが立っておらず、今度も当面の間は熊本~鳥栖駅間での運行が継続されるものと思います。幹線である鹿児島本線を走る姿もかっこいいですが、今度九州へ足を運んだ際には是非肥薩線内でも乗車してみたいものです。

▼最新の運行情報等につきましては、下記リンクよりご確認ください。

www.jrkyushu.co.jp

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。